
ぼくがグルダの「アリア」と出逢ったのは十代の終わりであった。親友が持っていた“Message From G.”という6枚組のLP(国内販売は『メッセージ・フロム・グルダ』というシリーズ名でI・II・IIIの各2枚組3セット)に収められていた。残念ながらこの怒濤の実況録音盤はまだCD化されていない。とにかく何でもありの演奏が続く。グルダが提唱する「フリー・ミュージック」が活き活きと体現された名盤だ。
この中に収められた「アリア」の演奏は貴重である。国内盤では3枚目のB面だ。グルダは左手でピアノを、右手でクラヴィコードをチェンバロ風に弾いている。そのようにして奏でられる「アリア」の美しいこと、美しいこと。演奏の最後あたりで、「これがいわゆるダ・カーポだよ」とボソッとしゃべる。そのグルダのユーモアあふれる解説に、聴衆から笑い声があがる。たちまち第一動機に戻って情感たっぷりのフィナーレを迎える。聴衆は泣き笑いの状態に置かれる。あとは黙って珠玉の旋律と演奏に酔うしかない。
グルダは2000年1月27日に他界した。その前年3月、彼は自分が死去したというウソの情報をわざと流し、マスコミを騒がせる。しかし、その数日後にグルダは「蘇生」する。そうして、自ら「復活」を祝うコンサートを開催して世間の物議を醸した。こうした社会に対するある種の不誠実さがグルダの魅力である。『メッセージ・フロム・グルダ』はCD化されていない。今夜は久しぶりにレコードプレーヤーとアンプに火を入れて聴くことにしよう。『メッセージ・フロム・グルダ III』のキャッチコピーは「懐かしいG.の訪れ」である。
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