2011年11月14日月曜日

土星と金星とおじさんと


 車を運転して岡山に向かう途中の話。神戸ジャンクションから山陽道に分岐し、三木というサービスエリアで休憩した。暁ごろのことだ。タバコを一服していると、一人のおじさんに声を掛けられた。

「土星が見えてるで。見まへんか。」

 声の主は、二基連結のでっかい天体望遠鏡を空に向けて構えていた。ぼくは誘われるままに接眼レンズに目を寄せた。ややぼんやりとしているが、確かに輪っかの付いた星が中央にはっきり見えた。ヴィヴィアン・ウェストウッドのロゴマークさながらの神秘的味わいを感じた。

「こっちの方は金星や。どや、ちょうど半月みたいやろ。」

 おじさんにそう言われて、もう一方の望遠鏡をのぞき込む。明けの明星。肉眼でもひときわ明るく輝くのがはっきり見える金星は、本当にお月様ぐらいの大きさに拡大されて見えていた。半分ほど欠けていて、半月そのもの。半身がヴェールで覆われたヴィーナスとでも呼ぶべきだろう。

 おじさんは、天気のいい日の未明には、このサービスエリアで天体望遠鏡を構えるらしい。星をいろんな人に見てもらうのが趣味なのだそうだ。通りがかる一人ひとりに「土星、見まへんか?」と声を掛ける。「うわー、すごい!」と言ってもらえるとホントにうれしそうな表情をして微笑んでいる。

 お話をいろいろ伺うと、狙った星にばっちり方向を定めて、ピントが合った状態に保つのはなかなか大変なことらしい。

「まあ、毎日が練習みたいなもんや。」

 なかなか凄みのある決めぜりふだ。隠れた達人である。曙光が射し始める少し前の忘れられない出来事だった。土星も金星もいいが、ぼくは再びあのおじさんに会いたい。

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